南海の楽園パラオ その光と影鷲塚貞長(名古屋市獣医師会)
「わが国の唯一の宝は豊かな自然です.それを傷つけるような経済開発は絶対に行いません.少々時間がかかっても自然との調和を最重視した経済を立ち上げ,その成果を民衆に分ち与えたいのです.」今から5年少し前蜂谷ガバナー年度のメイン事業として,またロータリーインターナショナル2760地区の環境保全への願いを込めたソーラ・ライティング・キット寄贈計画の事前打ち合わせに,アラカベサンの大統領府を訪れたとき,中村大統領がわれわれ名古屋市和合ロータリークラブ一行にしみじみと話しかけられたのが上述の言葉である.その後まもなく独立し,早や5年余りが経過したベラウ共和国の現況は,2760地区の善意と思いとは大変異なった方向へと歩を進めていることは,大変残念なことである. このソーラの寄贈計画には,地区内においてさまざまな意見があったこともまた事実である.しかしながら根気よくその意のあるところを理解いただき,2,000万もの巨費を投じる英断をガバナーがされたのは,今やグローバルな難題となっている環境問題を,ベラウにおける自然エネルギー利用の実際を,シンボリックなFor exampleとして提示することであったと私は理解している.このパラオへのソーラ・ライティング・システム寄贈プロジェクトに,地区委員の1人として深くかかわった者の責任として,私は昨年4月にソーラ寄贈のその後の現地の様子,そして12月にベラウの環境保全の現況と,2度にわたる調査に現地を訪れた. ソーラが5年を経過した今日も,村人の日々の生活に大変役立ち,感謝されていることが4月の調査で確認されていた.しかしながら,12月の調査で,とんでもない事実が判明したのである. それは中村さんが,わが国唯一の宝と例えた自然が,急速度に傷つきはじめているというのである.具体的には最近ベラウ政府の調査で,海水中に大変高値(遊泳不可)のダイオキシンが測定され,その元凶は生活様式の急速な西洋化による有害ゴミの山と,除草剤等の化学物質によるらしいとのことである.(既にグアム・サイパンではゴミ処理が完全に行きづまり,魚も輸入に頼っている.) 今ベラウでは環境破壊をめぐって2つの意見がぶつかっている.環境保全団体は,「ベラウで自然を傷つければ,自分たちに明日はない.」と連日ラジオで訴え続けているし,片や現金収入が増えるのなら,自然環境などあまり問題がないのではと,真っ向より対立している.前者の主流は良識ある年配者で,後者はアメリカかぶれしたアンチャン達である.(今年1月に訪れた沖縄でも,まったく同じパターンの対立があった.) かつてベラウでは,米国の核搭載艦船の寄港をめぐっての条約の可否で,過去5人の大統領のうち,2人が暗殺されている.(1人は一応自殺ということになっているが,島民のほとんどは,あれは他殺,と言っている.)長老たちは日々高まるこの対立が,流血の惨事に発展し,外国人などを巻き込まなければよいがと,心配している. ベラウは,曇り空でも,晴天の日の日本の7倍を越える紫外線が認められており,強い紫外線は,免疫不全,白内障,皮膚癌の直接的原因となることは,科学的に証明されているし,加えて高濃度のダイオキシン汚染では,加齢により免疫能力が低下し,がん年齢に達した中高年が近づくのは,この世に思い残すことの何もなくなった方々以外は,いかがなものかと思う. いずれにしても世界的に希有なるこの美しい島々が,そして,ペリリュウー島11,000名(玉砕),アンガウル島2,000名(玉砕),バブルダオブ島5,000名(餓死)の英霊が,ほとんど遺骨収集されることなくジャングルに眠る,いうなれば全島墳墓の地が,あっという間にポルノとラーメンの氾濫する,あの猥雑なグアム島化することを,精神的に,また具体的に善導してあげるのが,今日まで環境問題に関し,さんざん過ちを犯してきた,世界人口のたった20%にすぎない先進国の人々に課せられた,最小限度の良識と責任ではないだろうか. |