論 説
職場倫理の徹底について (社)日本獣医師会 小動物担当理事 清 野 光 一 ![]() また最近,警察庁幹部による度重なる不祥事,学校教育現場における教師のモラルの問題をはじめ,身近なところでは,医療に携わる医師・看護婦などによる相次ぐ医療ミスなど,あってはならない聖職の立場にある方々による事件が続発しており,職業倫理が大きく社会問題として取りあげられている. このように,多方面で社会の信頼を損なう事例が多発しているとき,われわれ獣医業界においても,人ごとでなく獣医師の職業倫理に起因すると思われる問題が,いろいろ取りざたされている.特に獣医師全体に対する社会評価に直接つながる立場にある,小動物獣医療の職場で,過剰診療・医療過誤などさまざまの獣医師倫理を逸脱した行為が相次いでいる.また,このことをとらえ昨今,一部の週刊誌,マスコミなどによる獣医師に対する批判が展開され,獣医師に対する不信感を募らせている.そのほか,診療料金に関しての問題をはじめ,獣医療に関係する種々の苦情・相談が,日本獣医師会をはじめ農林水産省,国民生活センターなどに多く寄せられており,全獣医師の社会評価を低めかねない現状である. このようなことから,われわれ獣医師は多様化する社会の要請に応え,適切な獣医療の提供を続けていくため,この際,組織として,獣医師倫理の徹底と再構築がなによりも重要な課題でないだろうか. 獣医師の職業倫理に関する規範は,日本獣医師会の「獣医師倫理綱領」として,昭和24年に制定されている.獣医師は,常にこの綱領を尊重し心の拠り所として,お互いに獣医師道の高揚をはかってきた.しかし,時代の推移とともに,獣医師を取りまく社会情勢,社会環境が大きく様変わりしたことなどから,日本獣医師会獣医師道委員会において,平成6年3月から獣医師倫理綱領の見直し作業がされた.そして,平成7年6月(1995年)獣医師の基本理念を示した「獣医師の誓い―95年宣言」が採択され,引き続き,これを基本に獣医師倫理の具体的事項を示した「動物医療の基本姿勢」が平成8年6月に制定されている.いづれも,近未来の獣医師に十分対応し得る画期的な内容を取り入れた立派な獣医師倫理規範である. 日本獣医師会獣医師道委員会は,この新綱領の運用にあたっては,獣医師の活動分野が広範多岐でありさまざまな考え方,価値観があることから,獣医師倫理に関わる諸課題について獣医師会会員相互が,今後とも継続して日本獣医師会の三学会,あるいは地区獣医師大会の場において十分論議を深めるようにと付帯決議されていることも尊重し,さらに,職業倫理の向上に向け適宜対応を望みたい. 昨今の目に余る,政・官・財界をはじめ,各種企業・団体の指導的立場にある方々による不祥事が連日のように報道されており,日本の将来が大変心配されている.日本学術会議からも,すべての大学で倫理教育をと提唱されている.また,政府でも本年4月から施行される国家公務員倫理法に基づき,国家公務員倫理規定を閣議決定し,倫理の確立を進めている. われわれ獣医業に携わる獣医師にとっても今こそ,職業倫理の重要性を再認識し,その徹底に力を入れるべきでないだろうか.獣医師は,獣医業と獣医技術を学び,社会に奉仕する職業であり,深い専門知識と,高い倫理観をもっておればこそ,世の中の人々から高く評価され尊敬されるのでないだろうか. |