また,1997年に4例の人間の狂犬病が報告された結果,1990〜1997年のあいだに米国で狂犬病と診断された人間の総数は26人となった.このうち21人は,米国内で感染したものと思われる.モノクローナル抗体による分析や遺伝子配列の調査によって,これら21人のうち19人が,コウモリ型の狂犬病ウイルスに感染していたことがわかった.したがって,コウモリから人間に狂犬病ウイルスが感染するという可能性は,依然として公衆衛生上大きな関心の的となっている.それゆえ,どのような行動がコウモリとの接触の機会を増加させるか,慎重に調査する必要がある.
  コウモリの狂犬病は,陸生肉食動物に見られる狂犬病とは疫学的に性質を異にしている.コウモリにおける狂犬病の伝播については,肉食動物における伝播と違い,今なお不明な点が多い.経口型ワクチンの使用は,ヨーロッパやカナダ南東部と同様,米国でも陸生動物の狂犬病の抑制に効果を発揮しているが,コウモリの狂犬病の流行を阻止したり,それが人間に伝染する危険を減らしたりする効果は期待できない.
  1997年10月20日,米国食品医薬品局は,人間の狂犬病予防薬として,感染源との接触前にも接触後にも使用できる新たな狂犬病ワクチンを認可した.この精製ふ化鶏卵細胞培養物(PCEC)ワクチンb)(RabAvert)は,Chiron Behring GmbH and Companyで製造されている.PCECの出現により,従来のワクチンに過敏な人間に対する処置の幅が広がった.

1998年の狂犬病(最新情報)
  オハイオ州では,1997年にペンシルヴァニア州西部から侵入したアライグマの狂犬病が広まり,アライグマ型の狂犬病ウイルスが各種陸生動物に感染しだしていたが,1998年についてはその報告数に減少の傾向がみられる.同州では,狂犬病の発生地域における積極的な調査プログラムと州内各地からの報告に基づく受動的な調査によって依然として監視を続けているが,今のところ明らかな拡大の徴候は認められない.オハイオ州では,1998年に入って7月までに,アライグマの狂犬病が18例(陸生動物全体では22例)確認されているが,1997年同期の49例(陸生動物全体では52例)に比べて大幅に減少している.さらに,1998年4月には,オハイオ州内の他の地域や中西部諸州へのアライグマ狂犬病の拡大を防ぐために,約355,000匹分に相当するVhRGウイルスワクチンが,4つの郡の合計1,500平方マイル以上にわたって散布されたc)