スカンクの狂犬病の増加は,主としてアライグマの狂犬病が流行している州でみられ,大半の報告例はアライグマの狂犬病が飛び火したものと考えられる.ただし,デラウェア州,フロリダ州,ジョージア州,およびメリーランド州だけは,アライグマの狂犬病が流行している州であるにもかかわらず,スカンクの狂犬病が減少している(4州合わせて67例).また,アーカンソー州,カンザス州,テネシー州,テキサス州,およびその他いくつかの中央平野部および中西部の州で報告されている増加は,当該地域のスカンク型の狂犬病ウイルスによるものである.
  コウモリの狂犬病報告数の増加には,複数の要因が考えられる.各種コウモリにおける狂犬病の発生頻度は,陸生の宿主と同様,時間的な変動を示す.これは互いに関連し合ったさまざまな要因が,経時的に変化しながら組み合わさっているためである.人間の狂犬病の多くがコウモリ型の狂犬病ウイルスの感染によるものだという事実は,最近になって特に知られるようになり,公衆衛生当局はコウモリとの接触で狂犬病になるおそれがあるとの忠告を一般に公示しだしている.だが,人間の狂犬病の発生に関する報告は,たとえ後日まとめたデータを発表した場合であっても,大衆を不安に陥れ,公衆衛生当局への問い合わせの増加を呼ぶことにもなる.ところが,そうした報告により,狂犬病の検査が実施されるコウモリ(また,頻度は少ないが他の動物についても)の数が増すことも事実である.したがって,近年みられるコウモリの狂犬病の増加は,このように一般に認知されることによって,コウモリの狂犬病検査の機会が増えたことも大きな一因といえる.
  げっ歯類およびウサギの狂犬病報告数の増加は,アライグマの狂犬病が流行している地域で飛び火感染が増加している事実を表しているものと思われる.一方,その他の野生動物で見られる報告数の減少は,テキサス州におけるコヨーテの狂犬病報告数の減少が原因と考えられる.また,ノースカロライナ州では2匹の攻撃的なビーバーが狂犬病と診断されているが(1匹は,釣り人の乗ったボートに乗り込もうとし,もう1匹は,川で泳いでいた人間にかみつき,そばで泳いでいた他の人間にもかみつこうとした),このことは,狂犬病に感染したげっ歯類はめったにみられないものの,大型のげっ歯類については狂犬病にかかった肉食獣に襲われたあとも生き延びて発症する場合があるため,他の種に危険が及ぶこともあるということを示しているa)