<<特集:読者参加企画−私もひとこと>>

「小動物診療に対するマスコミ報道」「学校飼育動物と獣医師とのかかわり」
「獣医師の生涯教育」

 本誌では,平成11年1月号から,読者の皆様に誌面づくりに参加していただき,より身近な雑誌として感じていただけるよう,「私もひとこと」のコーナーを新設することといたしました.
  本企画は,テーマをより個別のものとし,さらに,1カ月ごとにテーマを変えるのではなく,半年間程度同じテーマのご意見を募り(平成10年11月号709頁参照),誌上で会員の皆様に意見交換,意見のキャッチボールをしていただけるよう配慮いたしました.本号より標記テーマについてのご意見を紹介いたします.

  学校飼育動物と獣医師
須田沖夫(東京都獣医師会)
  小学校には古くから,動物舎があり,鶏,小鳥,うさぎ等を飼育していた.多くの学校には飼育舎の建築費や維持費,餌代そして傷病動物に関しての治療代も予算化されていなかった.平成の時代になり,生活科が新設され,学童に動物の飼育,観察などの体験から生き物の生態や生命の尊さを学ばせようとしている.しかし,教科の一環に飼育動物を組み入れても,動物の飼育環境は改善されず,不適切な飼育法や,不自然な繁殖のため狭いところで多数が生活することとなり,病気やケガが多発している.
  このような状態が自然という教員もいるが,学童などに人獣共通感染症や動物の被毛などによるアレルギー疾患の危険性もある.また,治療したくても予算化されていないので,担当教諭の自腹や学童のカンパで治療するか,動物病院の獣医師が学童の熱意と生命の尊さのためにボランテイア的に治療を行っているのが現実である.
  これでは学童に対してよい教育環境とならず悪い影響のほうが大きい.その問題を整理すると,(1)学校生活に適した,教育効果の高い動物種の選択,(2)その動物に適した飼育環境の整備と飼育管理の導入,(3)その動物の飼育担当者(教員)と飼育係(生徒)の人選と責任の明確化,(4)その飼育担当者への適正飼育,公衆衛生指導,(5)万一,傷病動物が発生した場合の対応マニュアルの策定,(6)動物が原因となって学童に何らかの被害が発生した場合の対応,(7)生活科等教科の中での動物とのふれ合い,(8)動物(生命)の講話等を行う部外者の協力,[9]保護者や地域の人たちの理解,協力,援助等がある.
  このように動物を取り巻く環境整備のため,早急に獣医師会は行政側と,(1)獣医師による学校飼育動物の現状調査を行い,その問題点をまとめるための費用の予算化,(2)各学校別に,問題点解決と事故防止のために定期的または常時対応できる学校獣医師制度の確立,(3)傷病動物の対応に関する獣医師会との協議体制の確立,(4)飼育担当者である教員と生徒に対する動物の適正飼育に関する定期的な講習会の開催,等について協議し,必要な予算処置をお願いすることと思う. 子供たちの学校でのいじめや学級崩壊等の問題が大きな社会問題になっている時,動物にふれ合い,思いやることで,少しでも子供達に心の潤いや生命の尊さを思いやる気持ちが芽生えてくれれば,動物達はよりよい仲間となり,また教師になると考える.

 学校飼育動物と獣医師とのかかわり

竹村裕子(滋賀県獣医師会)
  今年がうさぎの干支であることも理由のひとつにして,私がうさぎの学校飼育にかかわった体験を述べさせていただく.
  子供の担任教官からの依頼で,うさぎを飼育していくうえでの子供達からの質問に応える形で,飼育方法等をアドバイスする機会を得た.「うさぎ大作戦」と称する研究授業のひとコマである.獣医師の立場から当時の学校での飼育状況をみると,決して望ましいものではなかった.なわばり争いをするうさぎにとって,雌雄合わせて何匹も一緒に飼われることは快適であるはずがなく,その結果けんかによる痛々しい姿のうさぎも同居することになる.衛生状態も子供達の自主性だけに任せておくと,これもまた,きれい好きなうさぎにとっては厳しいものとなる.当然,健康状態も悪く動きも鈍くなる.「うさぎにもっと良い環境を」と声を大にしたいところであるが,学校への指導の方法,介入の程度が大変難しいと感じた.命をもった動物ではあっても,学校においては教材のひとつなのかと疑問とあきらめの入り混じった心境になった.と同時に学校飼育動物に対する飼育方法マニュアルの必要性を痛感した.あまたある教材のひとつには違いないが,動物を飼育することにより子供達が習得するものは測り知れず,今の子供達の教育に最も必要とされる部分に触れると思う.
  学校職員組織の中に,子供達の健康のための管理栄養士,管理薬剤師があるように,生きた教材のための管理獣医師があってもいいのではないだろうか.学校における獣医師の役割は,飼育動物の管理,飼育方法の指導のみならず,動物全般に対する豊富な知識を正しく伝えることにより,また,人間と動物との古来からの結びつき,ふれあいを熱く語ることによって子供達の好奇心を満たし,心の教育の域までも広がっていくはずである.これも獣医師の誇りある使命ではないだろうか.
  因みに前述の「うさぎ大作戦」では,子供達とともにうさぎの気持ちについて考えに考え,試行錯誤を繰り返し,教官の熱意と相まって運動場の片すみに,晴れた日にうさぎを運動させるふれあい広場まで子供達の手で作製された.うさぎの生活環境は大幅に改善され,その結果として子うさぎがどんどん生まれるという,うれしい悲鳴をあげた次第である.その後も次の学年へとしっかり飼育方法のポイントが引き継ぎされ実行されているのは嬉しい限りである.
  私にとって眠っていた魂を呼び起こされたような貴重な体験であり,子供達に動物の話をしに行くのが楽しみのひとつとなっている.