【読者の声】

  動物医療の基本姿勢とオンブズマン制度
松尾國雄(福岡県獣医師会)
動物医療の基本姿勢については,平成8年6月4日に日本獣医師会の理事会において承認されているところです.この内容は,動物医療のあり方,動物医療の目的をはじめ診療報酬等の6項目に亙っています.同時に,動物医療への崇高な精神規定が述べられていますし,この内容の是非を申すものではありません.
  ところが,この動物医療について動物飼育者などから仄聞するところ,必ずしも適正な動物医療が施されているとはいい難い内容もあります.
  そこで,動物医療の成果のほどを第三者機関によるチェック態勢―オンブズマン制度―の導入を見当する必要がある,と考えるのですがいかがでしょう.
  官庁,団体,会社などでは,すでにオンブズマンによる指摘が報道されています.一方,人の医療についても,厳しい指摘があることはご承知のとおりです.
  獣医師の社会的地位の向上がいわれている中で,社会的責任もともなうことでもあり,是非今後のご検討を期待します.

 獣医という資格名を動物医と改めることを提唱したい

名倉啓一郎(静岡県獣医師会)
  われわれは獣医師として国家免許を得て獣医という用語に何の抵抗もなく日常用語として使っている.
  英辞典ウェブスターによるとベテリナリーの解釈は「アニマル(動物)の病気に関与する……」と明らかに冷血動物を含む人間以外のすべての動物の病気に関与する医師,すなわち動物医の意と説明している.
  日本で動物医と呼ばず獣医と資格名を定めたのはどのような経緯があったか.私見として考えられることは古語辞典の職名として伯楽または馬医と呼ばれる職業者があり,さらに明治年代創設された日本陸軍に軍用馬の衛生担当官として馬医官が配属され,後年獣医官と改められ獣医師となり陸軍の重要部門となったこと,そして軍獣医官の確保養成を目的とする獣医学教育が推進された事実を考えるとき獣医と呼称したものは主として日本陸軍当局者の意向によるのではなかったかと思われる.
  獣とはケダモノを意味し,獣医が牛・馬・羊・豚・犬・猫の俗にケダモノと呼ぶ人間の飼育する動物の医師であったことと符合する資格名といえよう.
  馬産振興による軍用馬育成確保は戦前よりの国策であり畜産の最重点であった.獣医師法も畜産の振興発展に寄与することを獣医師の重要使命とした.
  戦後における社会情勢の激変,ことに国際的競合はついに沿岸200カイリを専管漁業海域とする各国の排他的漁業専管水域設定の定着するところとなった.このことにより,永年にわたって遠洋漁業を中心に水産国としての地位を誇った日本にとって,大きく漁場水域を失う結果となり,漁業界・政府とも栽培漁業の推進確立が重視され全国的に栽培漁業が脚光を浴びて発達した.
  急速に展開された日本漁業再生の主役視された栽培漁業は,予期せぬ魚病の蔓延によって被害が相次いで発生し,漁場存続すらも危ぶまれる事態となって緊急魚病対策が課題となったとき,当時の漁業関係者および行政当局者の多くが「獣医はケダモノを診る専門家であって魚はケダモノではなく,獣医師法に定める診療対象に魚類は含まれていない.したがって魚病に獣医が口出しするのは不適当.」との見解があったことは事実である.
  昭和52年,第80国会において獣医学教育に関して学校教育法,獣医師法の一部改正が成立し,この法律改正にあたっての付帯決議として「社会の時代的要請に鑑み獣医学教育の中に魚病への対応を強く求める.」の決議が付されている. 今日において,魚病が獣医学術応用分野であるとの共通認識は得られたといえよう.しかし一般の漁業者にとって専門の魚医を求める風潮は強く残っている.獣医という資格名がもたらす悪果ではないか.
  現代社会の要請は獣医学術応用分野として公衆衛生,畜産食品衛生,環境衛生をはじめ広汎多岐な分野に及び,それは往年の診療中心の職責ではなく,その意味でも「獣医」という資格名は不適当であるといえよう.
  21世紀を迎えて,われわれは現代社会の要請に応える使命の達成を期するため,先人の与えてくれた80余年の「獣医」と呼ぶ資格名を発展的に「動物医」と改称する運動を発議したい.
  われわれの後継者である後輩に「動物医」として,確立された社会的地位にふさわしい活動を期待しよう.