【名 称】川又犬猫病院
【所在地】〒042-0932 北海道函館市湯川町2-15-8
TEL 0138-59-2948 FAX 0138-59-2480
e-mail : kawamata@hotweb.or.jp
【沿 革】
昭和45年,現院長川又 哲が,現住所にて,川又犬猫病院を開院.
現在獣医師4名,動物看護士2名,患畜50〜60例/日
【ショートストーリー:川又犬猫病院訪問記】
いかと夜景とロマンの町函館の東はずれ,函館空港から車で5分,湯川温泉の真ん中にめざす川又犬猫病院はあった.看板には,犬猫病院としか書いていない.「なぜですか?」,と記者がありきたりの質問をすると,院長の川又先生は,「犬猫病院がここにあるということを地域の方に知っていただければ,あとは,自分の名前なんかどうでもよいじゃないですか」と返ってきた.なるほど納得.
道路に面している表面はすべてガラスばり,中がまるみえである.「これじゃすべてが見えてしまいますね」.院長「どうして見せたらいけないのですか.別にやましいことや,秘密のことがあるわけではないし,私は自分の病院を,市役所と同じパブリックポイントだと思っております.つまり,ここは,地域の皆さんのものなんですよ.隠すより見せた方がよいでしょう」,目は笑っていたが言葉は厳しかった.さらに,記者との間にこんなやりとりがあった.
記者「受付はどこですか」.院長「ここです」.記者「待合室はどこですか」.院長「ここです」.記者「診察室はどこですか」.院長「ここです」.次の質問は出なかった.いきなりどつかれるんではないかという不安が一瞬心をよぎったからである.院長の言葉が続く,「病院によっていろんなやりかたがあります.私は,ただワンフロアーが好きなだけなんです.なぜならば,この病院で交わされる会話や行動のすべてを,クライアントと獣医師が共有できるからなんです.皆が会話を聞いて,お互いがレクチャーを受けることになり,この病院は秘密はまったくないんだという強い印象を持ってお帰りいただけます」.診療室内はパソコンだらけ,別棟の入院室のなかをカメラが前後左右に走りまわり,これを診察室のモニターに映し出す手作り装置など,不思議なものが所狭しと並んでいる.記者「ずいぶんパソコンがありますね」.院長「メインはなんといっても電子カルテです.15年前に作った自作ソフトは今も健在です.この中に約4万人の患畜すべてのデータが入っています.この病院では,パソコンをのこぎりやペンチなどの道具くらいにしか考えません.カルテを捜す,文書を書く,記録を残すなどは獣医師がやるような高等な仕事ではないと考えるわけです.記者「では,獣医師はなにをするのですか」.院長「もっぱら診断治療,インフォームドコンセントなど,ゆっくりとお話を聞く方にまわるわけです」.記者「これらはインターネット用ですね」.院長「そうです.いまようやくインターネットのお陰で情報の流れに距離がなくなりました,私は北海道を,小動物診療の情報の発信地にしたいと思っているのです」.その後ひとしきり,マルチメディア談義,獣医療が人の医療のすそ野にいるのではなく,別な価値観の獣医療ピラミットを打ち立てたいこと,日本を小動物診療技術の輸出国にしたいことなどを熱く語り始めた.
最後に院長は,誰にもないしょだよと,奥まった部屋に案内してくれた.そこは,コンピューターのジャンク,万力,グラインダー,ハンダごて,犬猫の骨格標本にうまった秘密の部屋であった.ここで,骨折の症例などに,その症例だけに合わせたオリジナルのプレートを1枚の医療用ステンレスの板から削り出して使うそうな.
大きな病院ではない.新しい病院でもない.しかし,小動物診療に対する情熱だけはぎっしりつまった不思議な病院である.
ドン・キホーテのような院長とのやりとりを終え,外は夜のとばり,「かもめ」という名の小さな居酒屋の暖簾をくぐり,やん衆の津軽弁とイカソーメンをさかなに,熱燗を傾けると,先程の川又院長のいった,オリジナリティ,パブリックポイント,情報の発信地,小動物診療技術の輸出国などの言葉が頭の中でパルスのようにかけめぐり,思わずぼぅーとしていると,耳元で,四十をちょっと超えた美人のママさんの声,「あんた,今夜はなんか楽しいことがあったんだね」.窓の外には,湯けむりの中に浮かぶ北の海があった. |