【読者の声】
私の生涯学習 岩切 太(茨城県獣医師会)
私の生涯学習の一つに,発展途上諸国での自然観察や人間観察がある.今年の7月,1週間の日程でインドへの旅に出た.見るもの,聞くものすべてが驚きの連続だったせいか,連日38℃の猛暑も苦にはならない.異文化の典型でもあるインドの畜産は,宗教との結びつきが強く好奇心をそそる.住民の80%以上を占めるヒンズー教徒は,ことの外,牛を神聖視している.牛をいじめてはいけない,殺してはいけない,食べてはいけない,という厳しいおきてがあるからだ. 最初に訪ねた古都デリーでは,牛たちは,三三五五,思い思いに雑踏の中を平然と闊歩している.人や車を恐れる気配はまるでない.中には人混みに紛れて,寝そべったり排泄したりで,交通渋滞や環境汚染の原因にもなっているが,牛も人もまったくそれを意に介さない. だが,この牛たちもやがては年老いてくる.そのときの畜主の対応は?….日本と違って,と場直行というわけにはいかない.先程のおきてに反するからだ.だが,心配は無用.インドでは,老牛を収容する施設が何カ所かに設けられ,そこで余生を送ることになる.いわば,わが国の特別養護老人ホームのようなものだ.だが,その施設に入れる牛はいくらもない.それもそのはず,インドは牛の数では,アメリカなどを抜いて世界第1位.施設の数と,牛の頭数とのアンバランスが原因だ. ならば,施設に入れない牛の老後は,ということになるが,いつとはなしに畜主に見放され,住所不定,畜主不在の牛になるケースが多い.市街をさまよう牛の中には,畜主のはっきりした働き盛りの牛と,そうでない牛とが交じりあっている.畜主のいる牛は,夕方には連れ戻され,餌が与えられる. インドには,牛の外に水牛が飼われている.ヒンズー教の人たちも,水牛は平気で食べるようだ.なぜか? 水牛は牛ではない,という認識があるからだ.そういえば,牛と水牛間では繁殖ができない.染色体数やその構造に違いがあるからだ.動物分類学的にも,牛と水牛は「属」と「種」の段階で分かれており,両者は似て非なるもののようだ. インドで,ちょっと不可解なのは,猫がいないことだ.どうしていないのか,非常に興味のある話だが,大げさにいうと,真相はなぞに包まれたままだ.現地のガイドに聞いても,分からないの一点張りだ. 短い旅ではあったが,心のひだに刻まれた思い出は募る一方だ.源流ヒマラヤに端を発するガンジス河,そこでの沐浴風景,火葬,水葬,その汚水で洗濯に汗を流す業者,その汚泥化した聖水を地鎮祭のために,わざわざ日本まで持ち帰る中年男性などなど……. 生涯学習は,私にとっては,時間つぶしの手段ではなく,好奇心の源泉であり,生きがいの原点でもある.これからも自分流の生き方を探しだし,豊かな経験を重ねながら,個性豊かに,そして,高齢化社会にうまく対応できるよう,生涯学習に励みたい. 【表彰】 【獣医師募集】 【会 員 の 訃 報】 【事 務 局 日 誌】
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平成10年度 新疾病等防疫体制強化事業・小動物診断技術研修(中小家畜疾病技術研修)開催予定