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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(IV)
― フェレットの診療の基礎(2)―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

 フェレットMustela putorius furoはイタチ科Mustelidaeに属する動物であるが,その診療に際しては,犬あるいは猫に用いる方法を応用できることが多い[2].今回は,フェレットの診療の基礎のうち,麻酔法といくつかの手術法について略述する.

7 麻 酔 法
 麻酔前投薬には硫酸アトロピンと塩酸キシラジン,あるいはこれらと同様の薬理作用を有する薬物を使用する.なお,硫酸アトロピンを用いず,塩酸キシラジンのみを麻酔前投薬とすることも多い.投与量は,硫酸アトロピンはアトロピンとして0.05mg/kg,塩酸キシラジンはキシラジンとして1.0mg/kgとし,いずれも筋肉内注射または皮下注射を行う.
 麻酔は,手術等のためには,吸入麻酔を行うことが望ましい.吸入麻酔薬としては,安全性の点でイソフルランまたはこれと同様の薬物を用いるのがよいだろう.イソフルランの使用量は,おおよその目安として,1.5〜2.0%の濃度で流量0.5l/分,または0.5%の濃度で流量1〜2l/分とする.吸入にはマスクを用いることが多いが,可能であれば,気管内にチューブを挿入してもよい.
 また,短時間の麻酔を得る場合は,塩酸ケタミンを用いるのが簡便である.ケタミンとして30〜60mg/kgの用量を筋肉内注射する.なお,単に鎮静を目的とする際には,ケタミンの投与量は10〜20mg/kg程度でも十分である.ただし,フェレットの個体によっては,比較的短時間で塩酸ケタミンによる麻酔あるいは鎮静から覚醒することがある.

8 手 術 法
 フェレットの手術は,犬及び猫における術式に準じる.ここでは,避妊手術と去勢手術,肛門嚢摘出手術について簡単に述べるにとどめる.
(1)避妊手術
 ペットとして販売されているフェレットのほとんどは,すでに避妊手術が行われている.しかし,ときには手術が行われていない個体が販売されているため,この手術を行う機会がまったくないというわけではない.また,避妊手術実施済みとされていた個体でも,卵巣や子宮が残存していることがあり[4],発情徴候(図1)を示すなどの疑わしい例では試験的開腹を試みるとよい.
 フェレットの避妊手術の適期は,性成熟以降,すなわち生後6〜8カ月と考えられる.ところが,ペット用に出荷される個体は,8〜10週齢,あるいはそれ以前の時期に手術を受けているようである.しかし,こうして早期に卵巣を摘出すると,その後に副腎皮質が代償性に肥大する可能性があるといわれており[1],臨床の場における早期の避妊手術実施は推奨できない.
 フェレットは双角子宮を有し,その避妊手術は犬及び猫におけるのと同様の方法で実施する(図2).ただし,成体では,卵巣周囲に脂肪が厚く蓄積していることが多く,卵巣の摘出には十分な注意が必要である.
 また,フェレットは,発情した場合,交尾を行わないとそれが持続し,長期間にわたって体内に高濃度のエストロジェンが存在することになり,エストロジェンの骨髄抑制作用によって貧血を発することがある.これがフェレットでよく知られるエストロジェン誘発性貧血である.この場合,性腺刺激ホルモン放出ホルモン製剤などを投与し,発情を終息させ,その後に必要に応じて避妊手術を実施する.しかし,種々の事情で発情中に避妊手術を行うのであれば,特に卵巣動脈等をしっかりと結紮しなければならない.結紮が不十分であると,閉腹後に出血を起こし,フェレットが死亡することがある.
(2)去勢手術
 雄のフェレットについても,ペット用に販売されている個体のほとんどは去勢手術実施済みであるが,まれに手術が行われていない個体もある.
去勢手術の適期は,避妊手術と同様に,生後6〜8カ月と考えてよいだろう.
手術方法は,犬,猫の場合とまったく同様である.
(3)肛門嚢摘出手術
 フェレットは,肛門の両側に肛門嚢を有し,そこに存在する肛門腺から悪臭を放つ物質を分泌する.その分泌はスカンクのように著しいものではないが,肛門嚢摘出によりフェレットの発する臭気の低下が認められることは事実であり[3],フェレットをペットとして飼育する場合には肛門嚢の摘出は必須である.
 フェレットの肛門嚢摘出手術は,通常,避妊手術または去勢手術ともに実施される.したがって,ペット用に販売されているフェレットのほとんどは,すでに肛門嚢が摘出されている.しかし,これについても,手術が行われていない個体がある.
 フェレットの肛門嚢の開口部は,肛門に対して3時と9時の方向に認められる.肛門周囲の皮膚を指で広げることにより開口部を確認し,そのうえで肛門嚢を摘出する.
 フェレットの肛門嚢摘出の方法としては,3つの術式(図3〜5)が検討され,それぞれに一長一短があるが,肛門の両側を切開し,肛門嚢をその終末部から分離していく方法(図5)が手術後の状態の良好さの点で優れているように思われる[3].

図1 雌のフェレットの外陰部の腫脹
図1 雌のフェレットの外陰部の腫脹
図2 雌のフェレットの卵巣及び子宮
図2 雌のフェレットの卵巣及び子宮
図3 開放法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
図3 開放法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
A:肛門嚢開口部は,肛門周囲の皮膚の皺襞に隠れている.
B:皺襞を指で広げると,肛門に対して3時と9時の位置に開口部が認められる.
C:開口部にから肛門嚢内に小型の剪刀を刺入する.
D:剪刀により皮膚とともに肛門嚢を切開する.
E:開放した肛門嚢を剪刀と鑷子を用いて細切し,除去する.
F:皮膚を縫合する.
図4 閉鎖法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
図4 閉鎖法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
A:肛門嚢開口部は,肛門周囲の皮膚の皺襞に隠れている.
B:皺襞を指で広げると,肛門に対して3時と9時の位置に開口部が認められる.
C:開口部にアリス鉗子をかけ,肛門嚢をつまみあげる.
D:外科刀により肛門嚢と周囲の組織を分離する.
E:肛門嚢全体を一括して削出する.
F:皮膚を縫合する.
図5 閉鎖法変法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
図5 閉鎖法変法によるフェレットの肛門嚢摘出手術
A:肛門嚢開口部は,肛門周囲の皮膚の皺襞に隠れている.
B:皺襞を指で広げると,肛門に対して3時と9時の位置に開口部が認められる.
C:肛門の両側の皮膚を外科刀により頭側から尾側に切開する.
D:肛門嚢終末部を確認し,それを鉗子でつまみあげ,その部分から開口部に向かって周囲の組織を分離する.
E:開口部付近を切断し,肛門嚢全体を一括して削出する.
F:皮膚を縫合する.

引 用 文 献
[1] Fox JG, Marini RP : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 291-305, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[2] 深瀬 徹:日獣会誌,58,716-718(2005)
[3] 深瀬 徹,鈴木方子,磯 日出夫,相見和宏,武藤 眞:小動物臨床,19(5),15-22(2000)
[4] 磯 日出夫,深瀬 徹:小動物臨床,16(3),75-78(1997)

(以降,次号につづく)


† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
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